学校法務Q&A

私生活上の非違行為による懲戒解雇

【Q】 私立の学校法人が設置している高校なのですが、勤務している英語教諭が休日に飲酒運転をして人身事故を起こしひき逃げしたことが発覚しました。新聞等のメディアでも取り上げられている状況です。学校法人の名誉や信用にかかわる重要な事項ですので、当該教諭の懲戒解雇をすることは許されるのでしょうか。

【A】 就業規則上、私生活上の非違行為に対して「法令に違反する行為を行ったとき」等の懲戒事由を規定している場合が多いですが、その場合でも非違行為により学校の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合にのみ懲戒事由に該当します。ご質問のような飲酒による人身事故及びひき逃げというケースは懲戒事由となり得るものですが、懲戒解雇事由として認められるか否かは具体的事情を考慮した上で慎重な判断が必要となるでしょう。

【解説】


1 私生活上の非違行為について

 学校側は、労働者である教諭の職場外の私生活についてまでは踏み込めず、その私生活上の行為を理由に懲戒や解雇をすることはできないのが原則です。しかしながら、実際には、労働者の私生活上の行為が原因で、学校の名誉や信用が棄損されたり職場の人間関係の不和を生ぜしめる等,学校運営に支障をきたす場合があります。
 そこで、実際には、就業規則等で「学校の名誉・信用等を棄損したとき」「法令に違反する行為を行ったとき」等私生活上の非違行為について懲戒事由を置いていることが多くなっています。
 もっとも、労働者の私生活上の非違行為がこれらの懲戒事由に該当するといえるためには、「右行為により会社の社会的評価に及ぼす影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」(日本鋼管事件・最判昭49・3・15)とされており、凡そ私生活上の非違行為の全てが懲戒事由に当たるというわけではありません。そして、懲戒にとどまらず懲戒解雇を行うとすれば、より一層丁寧な事実調査に基づいた判断が求められます。


2 飲酒運転による懲戒解雇について

 今回のケースのように、飲酒運転による人身事故とひき逃げは、明らかな法令違反であって、メディアで取り上げられることで学校法人の社会的信用に大きな影響を与えるものと言えますから、懲戒事由に該当しうるものと思われます。さらに進んで懲戒解雇を検討する場合には,類似の事案の裁判例調査及び聞き取り等の丁寧な事実関係調査を前提として、人身事故及びひき逃げという事案の性質,学校法人の社会的信用に与える影響の大きさ等、具体的な事情を総合考慮した上で判断を行うことになるでしょう。
 なお,刑事事件として事故の捜査が進んでおり、仮に教諭本人が飲酒運転やひき逃げを否認している場合には、捜査機関の終局処分や裁判所の判決を踏まえた上で判断することが望ましく、拙速な対応は避けるべきです。

(2022.1.15)