学校法務Q&A

施設の管理者の責任

【Q】 当校には、プール施設があります。プールの周囲は高さ1.8メートルの金網フェンスで囲まれていて、体育の授業と水泳部が部活動で使用する以外の時間帯は常に施錠されています。このプールは児童公園に隣接しており、公園に遊びに来た幼児がフェンス越しにプールを覗いていることがよくあります。何か対処しておくべきことはあるでしょうか。

【A】 もしフェンスが幼児でもよじ登って侵入できるような構造であれば、万一、事故が起きた場合には賠償責任が生じる可能性があります。侵入防止のための対策を講ずる必要があるかどうか、速やかに検討すべきです。

【解説】 国家賠償法2条1項は、「公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。また、民法717条は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」と定めています。

 プールとそれを囲むフェンスは、国家賠償法2条1項の「公の営造物」ないし民法717条の「土地の工作物」にあたりますから、その「設置又は管理(保存)」に「瑕疵」があると認められる場合には、国公立学校の場合には国又は公共団体が、私立学校の場合には学校法人が、それぞれ賠償責任を負います。

 判例は、国家賠償法2条1項の「瑕疵」について、「通常有すべき安全性を欠いていること」をいい、安全性を欠くか否かの判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等の諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきであると述べており(最高裁平成5年3月30日判決)、民法717条の「瑕疵」も同義であると考えられます。

 過去には、児童公園に隣接する小学校のプールにフェンスを乗り越えた幼児が立入り、プールに転落して死亡したという事案において、幼児がフェンスを乗り越えてプールに立ち入ることは設置管理者の予測を超えた行動であったとはいえず、通常有すべき安全性が欠けていたと判断されて、賠償責任が認められた事例があります(最高裁昭和56年7月16日判決)。なお、この事案では、フェンスの高さは1.66ないし1.8メートルで、忍び返し等は設けられておらず、北側フェンスの上には一条の有刺鉄線が張られていましたが、その一部は破損しており、フェンスの金網は1辺の長さ5センチメートルの菱型状でした。

 本Q&Aの事案においても、プールに興味を持った幼児がフェンスを乗り越えてプールに入ってみたいという誘惑にかられることは十分予測できるものですから、もしフェンスの構造が幼児でも侵入することが可能なものであれば、通常有すべき安全性を欠いている、すなわち「瑕疵」があるといえるでしょう。従って、万一事故が発生すれば、施設の設置管理者ないし占有者が賠償責任を負う可能性があります。なによりも、前記判決にあるような取り返しのつかない痛ましい事故を絶対に起こしてはいけません。フェンスに忍び返しや警報システムを設置するとか、よじ登りにくい形状のフェンスと交換するとか、よじ登りにくいコンクリートの壁等に変更するなどの侵入防止対策を講ずる必要があるかどうか、速やかに検討すべきです。

(2022.10.21)