学校法務Q&A

ソフトウェア使用許諾契約書・保守契約書

【Q】私は、学校法人の新米経理部長です。当法人では、これまで長年にわたり利用してきた財務会計ソフトの使い勝手が必ずしも良くないため、新たな財務会計ソフトを導入することになりました。そして、数社から説明を聞いて比較し、当法人としての評価がほぼ同等の2社のソフトウェアに絞り込んだのですが、最終的にどちらを採用するかを検討するにあたって、この2社から提示されているソフトウェア使用許諾契約書の案を比較することになりました。このようなことは初めての経験であるためどのような点に着目して契約書を確認したり比較したりすれば良いか教えてください。また、併せて締結することになる保守契約書についてもどのような点をポイントとして検討すれば良いか教えてください。

【A】ソフトウェア使用許諾契約書において着目すべき点としては、①許諾される使用権の内容(独占的・非独占的、許諾される使用態様、譲渡の可否など)、②ライセンシーによるソフトウェアの変更や複製の可否、③バージョンアップへの対応、④料金体系、⑤損害賠償責任に関する規定などがあります。併せて締結する保守契約書については、(ア)保守対象の特定、(イ)保守サービスとして行う業務内容の特定(具体的業務内容、時間帯、オンサイト・オフサイトなど)、(ウ)料金体系、(エ)再委託の可否、(オ)損害賠償責任に関する規定のような点をポイントとして検討すると良いと思います。

【解説】

(1)ソフトウェア使用許諾契約書について

《許諾される使用権の内容》

 汎用性のあるソフトウェアの場合、使用権許諾を受けるのは貴法人だけではなく、他の法人も使用権許諾を受けることを想定されているので、そのような場合は、「本ソフトウェアの非独占的な使用を許諾する」というような契約条項となると考えられます。

 ソフトウェアの使用許諾は、指定されたハードウェアのみでの使用に限られる場合が多く、使用者・使用目的・使用場所・使用機器・端末台数などを特定したり限定したりする規定が設けられます。なお、近時増加しているクラウドサービスにアクセスしてソフトウェアを利用する形態の場合は、ライセンサー(ソフトウェアの使用許諾をする著作権者)からライセンシー(使用許諾を受ける側)に対して、使用許諾がなされた人数分のログインIDが付与されることになります。

 使用許諾権の譲渡や再許諾は禁止されるのが通常です。

《ライセンシーによるソフトウェアの変更や複製の可否》

 使用許諾を受けた側のライセンシーが、使用許諾をした側のライセンサーの事前の承諾なしに、当該ソフトウェアに変更を加えることは、禁止されるのが通常です。

 複製については、ライセンシーが自己使用する目的でバックアップ用に複製することについて、個数を限定して認められることが多いです。

《バージョンアップへの対応》

 使用許諾を受けたソフトウェアが、契約期間中にバージョンアップされた場合、契約時の旧バージョンしか使用できないのか、バージョンアップしたらその時点から無償で新バージョンについても使用許諾がなされているのか。或いは、バージョンアップしたソフトの利用は可能であるが、一定の対価を支払わなければならないのか、契約書の規定によって変わってくるので確認が必要です。

《料金体系》

 利用開始時までに一括払いする形態、契約時と検査合格時の2回に分けて支払う形態、ライセンサーが使用のサポートを行う場合に契約期間中に月額料金を毎月支払う形態などがあります。

 近時は、利用期間に応じて料金を支払う、サブスクリプション方式とする契約も見受けられます。

《損害賠償責任に関する規定》

 ライセンサーの債務不履行によりライセンシーが損害を被った場合でも、一定の場合にはライセンサーが免責される旨(例えば、故意又は重過失の場合だけ責任を負い、通常の過失では責任を負わない。)が定められていたり、ライセンサーが損害賠償責任を負う場合についても一定の上限額(例えば、ライセンシーが支払った金額相当額を超えない。)が規定されていて、それを超える金額については損害賠償請求ができないこととされている場合があります。この点は良く確認しておかないと、せっかく契約書を取り交わしていても、相手方に責任追及ができないことになってしまう可能性があります。

(2)保守契約書について

《保守対象の特定》

 保守サービスの対象となるシステムについて、ソフトウェア・ハードウェアに分けて明記し、設置場所などにより具体的に特定した方が良いでしょう。あるシステムを使用する場合、ハードウェアや市販のOSを用いて当該システムが稼働していたり、他社製の別のソフトウェアと連携している場合もあり得ますが、何らかの不具合が生じた場合、保守対象を明確にしておかないと、対応してもらえるか否かで認識の相違を生じトラブルを生じかねません。

《保守サービスとして行う業務内容の特定》

 ソフトウエアの運用支援のみなのか、バグの修正等にも対応するのか。保守対応時間は、平日のみか休日も対応するのか、受付時間・作業時間は何時から何時までか、遠隔対応(オフサイト)のみか駆けつけ対応(オンサイト)も行うのか、ハードウェアの部品交換等にも対応するのか等々、業務内容・範囲をできるだけ具体的に特定しておくことが必要となります。

《料金体系》

 毎月定額の場合もありますし、毎月の基本料金に追加のサービスが発生した場合には料金も追加されるなどの料金体系があります。

《その他》

 業務の再委託を自由とすると、実際にはいかなる業者が保守作業をおこなっているのか不明となってしまいますので、再委託を行うには保守を依頼している側の事前の書面による承諾が必要とすべきでしょう。そして、再委託した業者にミスがあったら、再委託した側もされた側もどちらもが責任を負うこととすべきでしょう。

損害賠償責任に関する規定は、ソフトウェア使用許諾契約書におけるのと同様に保守する側の責任を限定したり上限額を設けたりする規定があり得ますので注意が必要です。

(2022.11.7)